退職代行を使って辞めたら損害賠償される?
退職代行を使っても、「退職そのもの」については会社から損害賠償請求されることはありません。そもそも私たちには「退職する自由」が認められているからです。
「退職する権利」というものが直接記載された法律などはないですが、憲法で保障されている職業選択の自由の一環として退職の自由も認められています。
憲法22条
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
会社がどんなに人手不足だろうが、繁忙期だろうが「退職する」というのは、憲法によって認められた基本的人権の1つであるわけです。たとえ退職代行業者を使ったとしても、それは退職する自由を業者によって代わりに行使しただけ。
基本、「会社を辞めること」そのものについて、誰かに非難される覚えは一切ないのです。
会社側に損害を証明する責任がある
仮に会社が退職した従業員に対して損害賠償請求をする場合、証明責任が会社側(原告)にあります。あなたが退職したことで、どれだけの損害を被ったかということです。
従業員一人辞めることで、その会社にどれだけの損害があったのか、いろいろ計算をした上で賠償金額を請求して訴をおこすわけです。立証責任は原告(訴える側)にあるのです。
通常、どんな職場でも、人が一人抜けてもよっぽどのことがない限りは業務はまわります。正社員や契約社員・派遣社員もしくはパートやアルバイトであっても同じです。
多くの場合、残った人たちで仕事をまわしたり、代わりの人で代用したりします。それでも会社に損害が出たということは考えられなくもないですが、たった一人の退職で即会社に損害が出た、ということは通常あまり考えられません。
「○○さんが本日お休みになったので、代わりに△△さんにやってもらって〜、この案件は急ぎではないから後回しにしてもいいから先にこっちの仕事して・・・」という風に、残った人たちで仕事を割り振りします。
残った人たちは「え〜?」とか、「ふざけんなよ!」みたいな感じでブーブー言いながらも、結局はみんなでフォローし合ってまわしますよね。ベテランの責任者ならまだしも、入社したての新入社員だと、辞めたところで痛くもかゆくもないってのが現実です。
会社側としてもあらかじめ従業員が欠勤するなどのリスクも計算して業務をまわしていますので、ほとんどの場合は損害を被ったなどの大きな話にはなりません。
脅し文句で「損害賠償請求するぞ」と言われたら?
仕事辞めますと上司に言った際、脅すように「辞めたら損害賠償請求するからな」と言う人がたまにいます。
結論、スルーして大丈夫です。
法律や裁判を知らない人が適当に言っているだけです。前述のように、誰か一人が退職して会社に損害が出るなんてことは極めて稀です。従業員1人でしか業務をまわしてない職場だとか(深夜のワンオペとか)、その人しか知らない業務があったりしたときはちょと違うかもしれません。
しかし、そもそもそんな環境で働いてること自体が異常なわけです。その人がいなければ業務がまわらない職場を作った会社側に責任があります。
そして、その人が辞めたことで仮に損害が出たとしても立証も難しいですし、その損害賠償請求をするための裁判費用や弁護士費用などのお金や費やす時間を考えると、裁判を起こす方が逆にお金がかかるので訴訟沙汰になる可能性は極めて低いのです。
例えば、従業員1人が退職して会社に10万円ほどの損害がでたとしましょう。その裁判の為に30万円ほどの費用が掛かるとしたらどうですか?裁判に勝ったとしてもその分お金が減りますし、裁判にかける時間も無駄なわけです。訴えれば逆に損失を被るわけです。
なので、「退職そのもの」を理由に会社から訴えられるということは現実的には限りなくゼロに近いのです。但し、どんな時も好きなように退職しても全て大丈夫、というわけではありません。
但し、極少数ですが「辞め方によっては」会社から損害賠償請求されてしまうケースも中にはあるのです。
即日退職したら損害賠償される?
通常、どんなに遅くても2週間前には仕事を辞める意思を会社に伝えて承認を得てから退職するものですが、事前の告知なくその日のうちに退職した場合いわゆる即日退職(バックレ)の場合はどうなのでしょうか。
即日退職した場合、状況によっては会社から損害賠償請求される可能性があります。その日会社に行き、「明日から出社しません」と言うのならまだしも、朝一に電話かけて「会社辞めますので本日出社しません」という場合はちょっと注意が必要です。
本来あなたが「その日に」出勤してなされるべきであった業務を代わりに誰かがやらなければいけなくなりますが、突然退社することで普通に退職するより急激に業務が滞り会社に大きな損害を与える結果になってしまう可能性があります。
普通なら残りの人たちで業務を分担したりすればいい話なので、即日退職がすぐ「会社に大きな損害を与えた」という話にはなりません。
ただし、その日にあなたがお得意先の担当者と商談をする約束があったにもかかわらず即日退職したがために破談になってしまった、などの場合は会社に損害を与えたとされる可能性がでてきます。
研修中の新人や試用期間中の新入社員ならまだしも、正社員、特に店長などの責任者などの地位のある人が、その日に「もう辞めますので出勤しません」ということになると、お店自体が開店できない可能性もあるわけです。
そうなれば、会社側に少なからぬ損害を与えてしまうことになるのは明白なので、別途会社の方から訴えられる可能性があります。中でも無断欠勤してそのままバックレた場合なんかは、通常の退職扱いではなく最悪、懲戒解雇になるリスクすらあります。
懲戒解雇になってしまうと、転職活動をするときにとっても不利になります。解雇されたことを面接のときに伝えず、後から発覚すると「経歴詐称」として扱われるからです。
実際に損害賠償される事例とは?
実際に損害賠償請求されることは、極めて稀なのですが、それでも可能性はゼロではありません。ここでは実際に裁判沙汰になった事例をご紹介いたします。
期間の定めなく雇用した従業員が4日後に欠勤しそのまま退職。そのため取引先との契約が解約になったしまったという事例。
→無期雇用で採用したものの急に退職した従業員に対して、会社側の損害賠償請求が認められました。
会社の研修でアメリカに2年留学し経営学博士号を取得した従業員が2年5ヶ月で退職。
→会社側の海外研修に支払った費用の返還請求が認められました。
※「帰国後一定期間を経ず特別な理由なく退職した場合は会社が留学に際し支払った費用を返却する」という誓約書を提出させていたものです。
サイト管理人の体験談
ここではバックレ(即日退職)した場合は、訴えられたりすることは基本ないけれど、ゼロではないですよという話でした。多くの転職歴がある僕も、即日退職した経験があります。働き始めて5日後に音信不通になって辞めたり、違う部署に配属されて勤務中にいなくなったり。無断欠勤して会社から連絡が来た時に、そのまま「もう辞めます」と言ったこともありますし、何も言わず休んでそのまま出勤しなくなった事もあります。派遣やバイトで雇われていた時でしたが。そんな時でも会社から訴えられることはありませんでした。僕も裁判沙汰になんてなるとも思っていませんでしたし。辞めたのは大体、職場の人に不満があったからで、仮に訴えられても反論できる材料はいくらでもありました。配属先が変わった会社を除けば、すべて入社して数日程度だったので「会社に損害を与えた」なんてことは無いと思います。まぁ厳密には人員不足になって多少なりとも業務を滞らせてしまったとおもいますので、損害があったといえばあったかもしれません。ただ入社したてで仕事もほとんど覚えてない新人が会社に与える損害なんて微々たるものです。1人前の仕事をしたつもりなんて全くありませんので、訴えられるなんて微塵も思っていませんでした。よっぽど重要なポストについている人だとか、その人だけにしか分からない仕事があったりだとかでないと会社に損害を与えるというのは無理なんじゃないかな、と思います。なので、基本的には普通に業務をしている程度では、会社から訴えられるというのはまずないと考えていいでしょう。